西寺林の微地形

「ならまち」の北西に位置する西寺林は江戸から明治にかけて建設された町家の面影が残る商店と住居が混在する地域であり和楽器、呉服、喫茶、焼鳥、古美術、宿といった多種多様な店が軒を連ねている。そんな商店街に面した間口5.5m×奥行き35.5mの空地に新しい町家を計画した。

当面3つのプログラムを想定している。住居(ルームA、B)と和楽器とクラシックのコンサート及びレクチャーホール(ホールA)、通りに開放されたギャラリー兼不定期の生け花教室(ドマA)である。居住空間も含め用途は固定せず、建物を使いながら魅力的なプログラムに常に新しく更新していくような建物を目指している。どのようなプログラムが複数同時に入ってきても受入れる事が出来る柔軟で強固なジオメトリーが求められた。

天井、床、壁の形状決定に3つのパラメーターを設定し、間口3.6m×奥行き26.6mの細長いがらんとした倉庫のような門形連続フレームの空間に不均質なバラツキをつくっている。マクロにみると大きな起伏のないフラットな空間であり、ミクロにみると空間のムラが作り出す地形が立ち現れてくる。この地形を手掛りにして住み、働き、学び、遊ぶ場所を自由に作る事が出来る。

天井には地震や風といった水平力に対する鉛直構面の剛性のバラツキを可視化した、全て角度の異なる28枚の山形フレームを半間ピッチで連続配置し、天井高さ、明るさ、見通しのバラツキを生み出している。床面は南北に緩やかに傾斜する町の地形をトレースした4つのレベルとその高低差を利用した階段状の床で構成され、壁面は手の動きと想定される物の置き場所のゾーニングにより決定された配置交換可能な3種類の奥行きを持つ420枚の棚のランドスケープとして計画している。 古い民家や町家が所有者や用途をかえながらも時代を超えて残り、その地域の風景を作るように、この新しい町家も西寺林で生活する人々の為に利用され、様々な人や物、活動が混在する活気ある風景の一部となり、長く地域の人々に愛され続ける建物になることを願っている。
(写真撮影 笹の倉舎 笹倉洋平