西蔵―住居を併設した酒蔵である。葛城山の麓に位置する敷地周辺には、この蔵元をはじめ昔から職住一体の大型町家が数多く存在し、職と住の風景が混ざり合った独特の活気を生み出している。この町並みに魅力を与えている既存酒蔵の西隣に「西蔵」が建てられた。設計の手がかりとなった与件は、酒蔵として機能するために必要な気積の確保、小屋裏を含めた蔵の上階を居住スペースに充てて無駄なく活用、そして江戸時代からの町家が多数残る町並みと調和した蔵のただずまいを作る事、であった。そこで切妻屋根の9mスパンの小屋トラスで2階の床を吊る事で、1階に9m×15mの無柱空間を作ると同時に2階にも1階と同面積の床を生み出した。1階が酒蔵の為に必要な気積を確保した柱の無い機能的な大空間である一方、2階は大型トラスが1.8mと2.7mの2種類のスパンで林立する面白い空間になった。敷地周辺の建物の多くは、2階部分の天井高さが通常より低く主に物置などに利用する「つし2階建」、切妻、瓦葺、平入である。西蔵は上下階の用途を反転し上階が居住空間となるが、1階の高い天井によって結果的に「つし2階建」のプロポーションとなった。製造、ストックなど「酒」主体の酒蔵と「人」主体の居住空間との間には、打ち合わせスペース、テイスティングルーム、それに付随するフリースペースという「人と酒」が出会うエリアが挿入されている。この中間エリアからは通りを挟んで既設の酒蔵を見る事ができる。2階は既存の蔵を居住空間にリノベーションしたような作り方をしている。全体の吊り架構に後からビス止めされた60mmのスギ厚板で吊られたバルコニーとロフトにより空間を大きく分節し、更にトラスのグリッドからはみ出した可動間仕切りによって、必要に応じてより小さく区分できるようになっている。またトラスの上からスギとヒノキの横桟で構成されたグラデーション状の被膜を張り付ける事でトラスの見え方を複雑にしている。既存蔵のデザインを取り入れ過去の酒蔵と繋がりながら東面通りの雰囲気を作り、開口部や軒先のプロポーションを十分検討し北面オープンスペースに対して背景となるような蔵のただずまいを作るなど、積極的に町並みと関係を作っている。

構造計画
一般的な在来木造の技術と材料だけを用いてつくられている。屋根及び2階床の水平構面を固めた上で1、2階の外周に耐力壁を集中配置し、小屋組みから2階の床を吊る事で、内部はトラスの一部である床梁を吊る真束以外自由に動かす事ができる。これにより長期に渡り柔軟に建物の使い方を考えていく事が可能となっている。

photo by Sasakura Yohei

建物名称/西蔵
所在地/奈良県御所市
主要用途/酒蔵+住宅
家族構成/夫婦+子供

設計−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
吉村理建築設計事務所
担当/吉村理
構造 株式会社ホルツストラ
担当/稲山正弘

施工−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
株式会社 松彦建設工業

構造・構法−−−−−−−−−−−−−−−−−
主体構造・構法 木造在来工法

規模−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
階数 地上2階
軒高 6650mm 最高の高さ9375mm
敷地面積 484.56m2
建築面積 150.06m2
延床面積 267.39m2
 1階 137.70 m2
 2階 129.69m2

工程−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
設計期間 2014年5月〜2015年5月
工事期間 2015年6月〜2016年6月

敷地条件−−−−−−−−−−−−−−−−−−
地域地区 近隣商業地域 法22条地域 20m高度地区
道路幅員 北4.8m 東3.6m
駐車台数 5台

外部仕上げ−−−−−−−−−−−−−−−−−
屋根/平丸一体瓦
外壁/モルタル掻き落とし仕上げ・焼杉板貼・杉腰板貼の上キシラデコール
開口部/木製建具(制作) アルミサッシ(LIXIL)

内部仕上げ・使用機器−−−−−−−−−−−−−−−−−
酒蔵
 床/コンクリート土間t=200mmの上防塵塗装クリア
 壁/構造用合板t=9mm素地
 天井/構造用合板t=24mm素地
LDK
 床/ヒノキフローリングt=18mmの上蜜蝋ワックス
 壁/PBt=12.5mmの上漆喰・ヒノキ+スギt=18mm貼りつけ
 天井/PBt=9.5mmの上土佐和紙