今井の町家―気積と土間-

奈良県中部今井町の伝統的建築物保存地区内にある平入民家を改修し、家族4人の為の住居を作った。町並みをつくる民家には今も通り土間が数多く残っている。表通りから裏庭に抜ける既存の細長い土間を1階の床面積の1/2まで拡張し家の中心に据え、建物全体を多機能化した大きな気積をもった一つの土間空間となるように改修した。住居に備わる生活機能空間と、それとは切り離されたアトリエや接客、趣味や遊戯室といった+αの余剰空間としての単一機能化した土間という両者の関係を反転させた。畳床とスギ床は土間により4つに分断され、土間の中に立体的にアイランド状に配置され、古い大きなハシゴや遊具的な斜路により土間とダイレクトに繋がっている。奥にひとかたまりに隠されていた水回りは表に引っ張り出し土間に沿ってバラバラに配置した。外と地続きの土間は、料理をし、食べ、湯場を楽しみ、洗濯し、顔や手を洗い、歯磨きし、便所に行く、生活空間そのものであると同時に、戸口前の軒先や裏庭、板間や畳の間での活動がはみ出す事を許容する。外的な内部である土間が室同士の境界やヒエラルキー、表と裏の区分を曖昧にしている。

切妻屋根勾配に沿って高さを変えながら配置された母屋と2本の妻柱でつくられた7組の門形架構を既存民家の骨格として捉え、内側に2種類の鳥居フレームを14枚入れて、この骨格を可視化し、土間で展開する同時多発的で多様な活動に動じない強固な背景とした。既存母屋の下に添えられた鳥居の笠木は柱を支点とした天秤構造により、母屋を受ける柱の位置を自由に動かす事で、1階天井板で分断され上下で異なる既存架構の整合性をとっている。更に木材不足のために細い材や短い材を繋ぎ合わせて組んでいる上下階の管柱同士或いは梁と柱の接合部を新設フレームにより固めている。一箇所に力が偏らないように分散配置されたフレームは、垂直構面の保持や耐震機能を持ちながら、棚や動線、水回りスペースのガイドにもなっている。

静かな郊外での暮らしと人が集まる都市での仕事や娯楽を楽しむという関係が曖昧になり、食事をし、子供と遊び、家事をする日々繰り返される暮らしの全てのシーンを楽しみ、更にその暮らしの楽しみの延長線上に仕事や娯楽があるという状況が加速している中、住居の新しいあり方を模索する上で、大きな気積や多機能化した土間はひとつの手掛りになると考えている。