杉の家―敷地は町全体が緩やかに南へ傾斜する見晴らしの良い素晴らしい住宅地の一角に位置します。新しい試みとして、周辺と敷地とを塀や柵で区切る事を止め高低差だけを境界とした上で、緩やかな斜路により周辺と敷地内とをあいまいに繋いでいます。周辺から敷地内に入り込んだ斜路はそのまま中2階のデッキテラスに接続するスロープへとつながり、道路の高低差を利用した重層的な床レベルや内外を複雑に行き来する回遊動線とあいまって、建物の中だけではなく、豊かな周辺環境全体の中に住んでいるような心地よい開放感があります。同時に書斎や寝室、和室といった落ち着きのある、とどまる場所を内包したコの字型のボリュームを東西に配し、開放性のカウンターウエイトとして機能させています。1対のとどまる場所は、外から室内に入りこんだ焼きスギ板の大きな壁面と、部屋の他の柔らかい仕上げに対して非常に荒々しい表情を持つ土壁の大きな壁面により、より強調されています。「1対」というデザインは必然だったように思います。東西に設置された1対の巴瓦は、2人のお子さんが作成されたものです。この建物は接着剤や合板を一切利用せずに、大きな気積の在来木造住宅を実現しています。自然素材の木造住宅といえど、現実には合板や接着剤に大きく頼っています。裏方が変われば表面のデザインにも変化が生じ、従来の木造住宅には見られない、新しい建築表現になったのではないかと思います。厚板の斜め張りや、貫壁など伝統工法を織り交ぜ、無垢材だけで構造上の解決を試みています。更にあらゆる2次部材を30mmをモジュールとして、木組みやビス止めで組み上げており、将来的な再利用やリノベーションに対応しています。建物内外から魅力的な見え方をしている長大な薪小屋が示すとおり、薪ストーブは設計にあたっての最重要項目の1つでありました。冬の暖房は基本的にはストーブによる全館暖房です。階段室下のニッチから横方向に出てきた暖気は吹き抜けを上昇、吹き抜けに面して設置された巨大なガラス面により、上部で冷やされた空気が下降し、対流を生み出します。更にストーブ上部の分厚い土壁に蓄熱を期待しています。夏季は深い庇による日射の制御と、詳細に検討された通風計画により快適な環境を生み出します。

photo by Hitoshi Kawamoto

建物概要

建物名称/西蔵
所在地/三重県名張市
主要用途/住宅 菜園 薪小屋
家族構成/夫婦、子供2人

設計−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
吉村理建築設計事務所
担当/吉村理
構造 ナカオ建築設計舎
担当/中尾敏也
プロデュース―ひととき.net 阪口勝行

施工−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
株式会社 松彦建設工業

構造・構法−−−−−−−−−−−−−−−−−
主体構造・構法 木造在来工法

規模−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
階数 地上2階
敷地面積 283.48m2
建築面積 114.03m2
延床面積 176.29m2
 1階 101.01m2
 2階 75.28m2

工程−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
設計期間 2013年8月~2014年3月
工事期間 2014年4月~2014年10月

外部仕上げ−−−−−−−−−−−−−−−−−
屋根/瓦葺
外壁/焼きスギ板
開口部/ベイマツ 複層ガラス6+6mm アルミサッシ

内部仕上げ−−−−−−−−−−−−−−−−−
リビング・ダイニング
 床/吉野産スギ板t=34mm
 壁/吉野産スギ板t=12mm 漆喰
 天井/吉野産スギ板t=30mm(天井野地)
 建具/坊主襖 既存建具再利用 舞良戸
キッチン
 床/吉野産スギ板t=34mm
 壁/吉野産スギ板t=12mm
 天井/吉野産スギ板t=30mm斜め張り
 厨房機器/ステンレス製作
洗面
 壁/吉野産高野槙t=12mm
 天井/吉野産スギ板t=30mm斜め張り
書斎
 床/吉野産スギ板t=34mm
 壁/吉野産スギ板t=12mm 漆喰
 天井/吉野産スギ板t=30mm(天井野地)
トイレ
 壁/吉野産高野槙t=12mm
 天井/吉野産スギ板t=30mm斜め張り
和室
 床/沖縄ビーク
 壁/吉野産手漉き和紙
 天井/吉野産手漉き和紙
子供部屋
 床/吉野産スギ板t=15mm
 壁/吉野産スギ板t=12mm 漆喰
 天井/吉野産スギ板t=30mm(天井野地)

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