桜坂の板倉

-山に捨てられた杉大径木で構築する高耐力板壁構造体-

奈良県は戦前から植林された樹齢100年を超える大径木スギ人工林の蓄積量が極めて豊富である。あわせてここ30年の間に、全ての材を余す事無く搬出出来る、5人程度でチームを組み山の上に架線を張る「架線集材」から、高値で売れる一番玉や二番玉を厳選し一本単位で搬出する一人でも作業可能な「へり集材」に移行した事で、売る価値がないと判断された残材ではあるが径の大きなスギ丸太が数多く山に放置されたままとなっている。高耐力板壁になり得る事で大量のスギ廃材に価値が生れ有効活用され山の風景を変えたい。

集材、製材、加工場のある吉野から車で2時間程度の場所にある神戸市の住宅造成地に建てられた夫婦と子供3人のための住居である。上下階で静かな大人のための場所(ラウンジ)と賑やかな子供のための場所(リビング)とを分け、ダイニングキッチンを両者の間に挟んでいる。この3つのレベルに神戸港を一望できる屋上階を加え、計4つの床レベルをつくり、真ん中に設けた越屋根をもつ幅半間の細長い吹き抜け廊下がそれらを串刺しにしている。廊下は動線集約ゾーンであると同時に、夏は卓越風から形状決定された越屋根が巨大な換気装置として、冬は大きなガラス面が巨大な集熱装置として働く。

刻みを少なくし大きく材を取る事で大きな節や虫食いの跡という欠点を解消した大径木廃材から切り出される45mm厚板で組まれた板壁A 、Bで構成された汎用性の高い単純な架構である。壁以外の床、屋根も全て45mmと60mm厚に切り出した杉厚板で作られた。外周はコの字型に組んだ1間幅の板壁Aを2間ピッチで配置し、内部は板壁Bを吹き抜け廊下の両脇にAと同じく1間幅2間ピッチで並べ、その間を構造とは切り離された雑壁や開口部で充填している。板壁Aは200mm幅の大判厚板をダボで繋ぎ、軸組との間をビス止めする事で、構造用合板と同等の高い壁倍率を持つ落とし込み板壁である。告示1100号の壁倍率の向上を目的として、稲山正弘研究室で予備試験を実施した後、建材試験センターにて本試験を行った。板壁Bは同研究室で実験、開発している間柱程度の汎用製材のビス止めだけで簡単に作ることが出来、高耐力を発揮するラチスである。

吉村理

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