清水の森長屋

5戸のメゾネット型2階建木造長屋である。南北に沿って各住戸を配置する事で、玄関が面する西に設けたバス通り沿いの賑やかな表広場と、生産緑地に面する東に設けた静かな裏の共有デッキに全住戸からアクセスする事が出来る。一方で屋根形状をノコギリ型にする事で全ての住戸2階に南から光が入るようになっている。車の往来が激しいバス通り沿いは車に蹴られて地面付近が認識されにくく町の表情は道路面から少し上の方で決まると考え、西面のファサードの表情を庇の上下で切り替えた。上部は焼杉板目板張りの単一の仕上げとする事でノコギリ型の明確な幾何図形として車道の背景をつくり、対比的に下部は住人の為の生活の背景とした。軒下がコミュニケーションの場になるよう5棟を繋ぐ大きな庇を設け、植栽、設備機器目隠し塀、手すり壁がレイヤー状に重なり合うことで奥行きを生みながら、敷地の一部を公共歩道として開放し、交通量の多い街に対して完全に閉じること無く適度に開かれた新しい長屋の形式をつくった。レイヤー壁の隙間に水場やベンチ、階段が設けられ、建物の雁行配置と相まって、変化に富んだ「あふれ出し」的な賑わいを生み出している。植栽帯との間は昔ながらの長屋の路地と見なす事も出来る。外壁は入手可能な様々な材種で加工せずバラバラな寸法のまま、並び方を調整する事で各住戸間に差異とまとまりを同時に実現した。全ての住戸2階に南面採光のLDK1ルーム、1階は表側あふれ出し広場に繋がる大きな土間室をもつタイプと裏側共有デッキに繋がる大きな1ルームをもつタイプの2種類がある。 2階登梁を支持する束を2階柱と一体化して通し柱とする事で、小屋梁上のハイサイドライトに筋交いや壁を無くしている。方杖のとりつく高さを隣住戸の登梁高さと合わせる事で通し柱中間部にかかる曲げモーメントを低減し、910ピッチで細かく配置された方杖は2階内部に耐力壁が無いトンネル状の架構を安定させると同時に美しい陰影を生み出す仕掛けでもある。

清水の森プロジェクト

近年バス通りには新しい大きな店が次々と完成し街が賑やかになっていく一方で、子供が減り地域に住む人びとの交流やコミュニティーが希薄になってきている事に対して、数年前から長屋のオーナーご家族は堺市深井清水に「清水の森」という名で地域に住む子供からお年寄りまで様々な世代の人々が集まれる場所づくりを精力的におこなってこられた。長屋も清水の森の一環であり住人同士の交流が生まれるような仕掛けをもつ建物である。家族が住む昭和初期に建立された瓦葺きの木造二階建ての母屋をはじめ、離れ、土蔵、長屋門を徐々にリノベーションしながら「清水の森」の核として環境を整えてきた。最初に長屋門を事務空間として、次に蔵をカフェとしてリノベーションした。同時に離れをイベントスペースとして開放し様々な催しを定期的に行っている。かつて民家は商売や作業など住むこと以外の機能をもちあわせていた。通り庭、土間、離れ、蔵、ツシ2階など余白が多い古民家ならではの特徴をうまく生かして民家を地域の拠点機能を持つ住宅という新しい空間にコンバージョンしている。現在母屋のツシ2階スペースを耐震補強の上、子供の遊び場や会議など様々な事に活用出来るように改修工事を行っており、離れはレストランとしてコンバージョンする計画である。ここでは山梨県からせいろ蔵とよばれる長尺のマツの厚板だけで組み上げた板蔵を移築して既存離れの架構に組み込み新しい空間として再構築する事を試みている。 清水の森に通底する建築的なコンセプトとして、1)解体古民家のあらゆる部材再利用、2)出来る限り厚い大きな材を利用する事で将来的なカスケード利用も視野にいれる、以上の2本柱があり共に資源の循環である。形や数量、種類が一つずつ全て異なるため、一般的な流通は難しく市場には出回らないものばかりであるが、探せば全国至る所に数多く眠っている。それらの魅力的な材をアッセンブルし、出来る限り原型のまま加工を少なくして歩留まり良く利用している。将来的なカスケード利用が可能な巨大な厚板を使う一方で製材後の残材である利用が難しい薄い端材や解体された古材等を無駄なく使っている。