旧花内屋敷地南東角に建つ「辰巳蔵」を事務所にリノベーションした。蔵の西側に建つ長らく使われていなかった旧荒物屋を道に開放し奥に隠れていた辰巳蔵を通りに現わす事で、西側の裏道と北側の表通りから続く通り庭を辰巳蔵を介して繋いだ。長大な高塀で囲まれた人気の少ない裏通りから敷地奥にある辰巳蔵の内部が見え、更に奥にある通り庭の気配も感じる。辰巳蔵と旧荒物屋の間に設けた半屋外の光庭は、蔵内部に光を取り込むだけではなく、層状に重なった空間構成を照らし裏通りに表出させる。旧荒物屋の天井、壁のベニア仕上げを剥がし、耐震検討の上残された下地の荒板と中から現れた土壁や厨子2階の床板をそのまま見せている。古建具と古材を保管する場所とミセという関係であった辰巳蔵と旧荒物屋の役割を反転させる事で、通りからミセ空間(事務所)まで引きをとり、荒物屋は保管場所だけでは無く、事務所の拡張として利用しながら通りから自由に出入り出来る土間空間として町と繋がる。壁土を落とした後に残った既存貫越しに、辰巳蔵に新しく耐震補強の為挿入された貫立体格子が重なり合って見え、その向こうに漆器を保管してある「入れ子蔵」の扉が見える。その上は事務所として利用している。 土蔵の柱が全て1,2階の通し柱である事を利用して、2階の耐震要素の50%を1階の耐震要素に加えることが出来た。これによって1階は机天板の支持を兼用する最小限の耐震壁だけを設置した。既存蔵の外周に張り巡らされた貫壁のパターンを3次元で展開し、耐震要素でありながら、西日を受け深い陰影を作り、模型を置く等の棚板の支持体にもなっている。(写真撮影 笹の倉舎 笹倉洋平)