大和蒸溜所

混ざり合いを加速させて活気を生み出す市松模様の壁

「西蔵」、「旧花内屋」に続く御所本町通りでのプロジェクトである。西蔵の真向かいにある築100年を超える町家の一部を、古来よりこの地で育まれたボタニカルを詰め込んだクラフトジンの蒸溜所にリノベーションした。1階には蒸留器が設置された作業土間の他、バーカウンターを併設した大人数が入るダイニングスペースとして使用可能な板の間、ゲストルームとして利用できる畳の間があり、2階にはミーティングやプレゼンテーション等に利用できる大小2つの空間が設けられている。既存建物は内部に壁が一切無く、全ての建具を取り外すと7間半×5間のワンルームになる。そんな厨子2階切妻の巨大な空間の開放性を生かしながら、テクスチャーや色の異なる2種類の透過性ある市松模様の壁を新しく挿入して耐震補強し、複数のプログラムに合わせて空間を緩やかに分節している。横方向の力に対して、市松模様に張られた壁は力の流れが途切れないために無開口壁と同じような挙動をし、同じく透過性のある腰壁や垂壁と比較して柱を折るような力が働かない。張り方を工夫すれば面材を軸組に釘止めするだけで接合部を気にせず抜けのある耐震補強が出来る。粘りある耐力壁として利用できる東西両妻面にある既存土壁の上に焦茶色に塗装された9mm厚の構造用合板により作られた市松模様の壁を付加する事で剛性アップを期待している。耐力壁として活用可能な既存の壁が全く無い内部には、鳥取県が大臣認定を取得したスギ厚板耐力壁を参考にして作られた、30mm厚の無塗装吉野産スギ板を軸組に釘止めした上で板同士をヒノキのダボでとめた木材同士のめり込み抵抗による市松耐震壁を新設した。 表通りから新しいレイヤーである市松模様の壁を介して既存の古い骨組みが透けて見え、更にその向こうに坪庭、ハナレ、蔵等の、裏に隠された町の重層的な空間構造を垣間見る事ができる。市松模様の壁は補強や間仕切りとしてだけではなく、色々なプログラム、新しいモノと古いモノ、町の表と裏の渾然一体となった混ざり合いを加速し活気を生み出す仕掛けでもある。 (写真撮影 笹の倉舎 笹倉洋平