明日香の大中小架構

-異なる時間の枠組みに応じた在来架構の新しい形-

奈良県明日香村にある6人家族の為の住宅である。修学旅行生の宿泊場所や、学生や旅行者が楽しめる私設図書館としても機能する事を想定している。この地域は細かく景観形成基準が定めてられており、屋根形状や外壁など外形に非常に厳しい規制が掛かっている。いわば内とは無関係に外を作る原理が既に決められている。先ず初めに規制に従った外形を大架構により作り、その中に外と無関係に内形を作る3つの中架構を大架構から部分的に吊ったり寄り掛けたりしながら置いた。更にその中に小さな木箱で作られた小架構が上位架構の隙間に入り込んだりレベルの異なる中架構同士を繋いだりして、単なる木の架構物を生きた空間に昇華する役割を担っている。

地域の風景に繋がる最も長い時間の枠組みを持つ大架構は山形アーチ梁と105角片筋違いから成る4枚の門形フレームで構成され、4間半×5間の大空間を作っている。部位毎の必要な強度にあわせて樹種を指定した長尺材をプレカットにより加工している。中架構は無等級県産スギ短材で簡易に作られた格子組みの上から構造用合板をテレコに釘止めし、緩やかに水平垂直面の剛性を作り居住性を持つ箱体として成立させている。壁、開口、ニッチを同時に生み出す単純なシステムであり、人力で施工、可変しやすい。大和蒸溜所において類似システムでリノベーションしその有効性を確認している。

仕事柄引っ越しの多いクライアントが所有する無数の蔵書をそのまま持ち運ぶ為に利用してきた233個の木箱を、簡単に配置換え可能な、本棚、階段、小壁、手すり、間仕切りとして利用している。更に上位架構材の端材を再利用し棚を作るなど出来る限り材を使い切るよう計画した。 架構同士の間に生まれたズレは、空気環境を調整する土間や縁になったり、天井裏のような籠もれる場所や、想像力をかき立てる大小様々な隙間をあちらこちらに生み出している。古い民家が点在する里山の風景に寄り添う外観にするという規制からはじまったこの計画は結果的に内部もこの地域の農家型民家のおおらかな形式を踏襲している。

(写真撮影 笹の倉舎 笹倉洋平

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